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『限りなく透明に近い帝国』
猪狩「本って面白いな」
神奈川「いきなりどうしたんだ、ついに精神病発症か?」
猪「電波発言が酷くなって精神病院通ってるのはお前の親父さんの方だろうが」
神「・・・それは言うな」
猪「まあともかく、最近面白い本を手に入れてな」
神「ふうん」
猪「いわゆる伝記物なのだが、凄く面白い」
神「何の伝記?」
猪「今はもう滅んでしまった国の歴史・・・かな」
神「なんていう国なんだ?」
猪「なんか判明していないらしい」
神「へぇ」
猪「うーん・・・ないなぁ」
神「まあ、無いならないで良いのだが」
猪「いや、しかしこの面白さは是非とも皆に知らせたい」
神「はぁ」
猪「・・・仕方ない、口頭で説明しよう」
神「・・・ぇ?」
猪「何か不満でも?」
神「あ、いや、その、本で読みたいなぁ、って」
猪「無いんだから仕方ない、どうせ暇なんだから付き合えよ」
神「・・・・わかったよ、探しながら話してくれ」
猪「その国ってのはな、現代社会と違った、格段に進んだ文明を持っていたらしいんだ」
神「アトランティスとかムーとかみたいだな」
猪「その進んだ科学の最たるものが、今で言う『ステルス』だった」
神「あの戦闘機とかのやつ?」
猪「そうだけど、こっちのほうが戦闘機より遥かに技術は高いんだ」
神「へぇ」
猪「その国にはステンウルスという都市があって、その都市の防衛機構として開発されたらしい、ちなみに『ステルス』の語源はそれだ」
神「・・・胡散くせー」
猪「そんな国が何故滅びたかというと、ある時、内紛が起こったからなんだ」
神「原因は?」
猪「わからない。とにかく、凄惨だったらしい。ただ、その時既にステルス機構は簡略化されてて、庶民にも手に入る物になっていた」
神「・・・じゃあ、大丈夫だったんじゃね?」
猪「それが問題だったんだ。実際、ステルス機能で被害は防げたんだが、その内紛が終わった後に致命的な問題が発生した」
神「それは・・・?」
猪「自分の家がわからなくなる人が続出して、ホームレスが急増した」
神「・・・なんじゃそりゃ」
猪「行き場を失った群集たちが、暴動を起こしたんだ。『俺たちの家はどこにあるんだ!』って」
神「おもちゃ無くして母親にキレてる子供だ」
猪「そして暴動で当時の国王は処刑されたんだが、ステルス機能で隠れた家は見つからなくて、餓死者が続出、国はますます混乱した」
神「ふうん・・・で、最後どうなったの?」
猪「消えた」
神「・・・は?」
猪「あるとき、突然消えたらしい。島国だったらしいんだが、もう、跡形も残ってない」
神「・・・・」
猪「ま、あらすじはこんなところだな」
神「・・・で、本は見つかったの?」
猪「うーん・・・と、あ、あった。これだよこれ」
神「どれどれ?」
猪「はいこれ」
『限りなく透明に近い帝国』 民明書房刊
神「・・・お前、こんな本どこで手に入れた?」
猪「お前の親父さんがくれたんだよ、他にもいっぱい持ってるらしい」
神「親父・・・」
猪「お前の親父さんてさ、すげー偉大な男だと思うぜ。俺、マジでリスペクトしてる」
神「・・・馬鹿にしてんのかこの電波野郎が」
猪「いや、それお前の親父だから」
神「・・・・だからそれ言うなよ」